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それから暫く経って落ち着いた頃だった。泣き疲れて動く気力も無くなった頃、もう日は高くなっていた。
銀梟はいきなり叫びだした自分を伺っている。この暖かさをなくしたくなくて、でも嫌われるのが嫌だった。でもいつまでも抱かれているのは嫌だろう。
ゆっくりと地面におろす。
離れていかないことにほっとした。
この後どうすればいいのだろう。この子のおかげで目は覚めた。けれども、やはり何をする気にも成れず呆然とする。
この大切な子をどうしよう?自分は群れの一員として数えられたのか?…名前をつけよう。こんなにも騒いでも去っていかなかった子に。
辛抱強い優しい雛。たしか、そういう意味の言葉があったはず。
「そうだ、スリクス。知恵と沈黙の意味を持つこの名前にしよう。…あ、ぼくの名前はカラ。カラは歌と歴史を意味する。よろしくね。」
笑う力もないけれど、それでも笑いかける。この雛が名前を気に入って自分を群れの一員として認めてくれることを願いながら。
「ホー、ホー。」
鳴き声がいいよと言ってくれように帰ってきたことに目を見開き、初めて心から微笑んだ。美しい銀の羽に黒曜石の瞳は目元が赤い自分の姿を映し出している。
「スリクス、…ありがとう。」
苦しめないように優しく抱き締めて、笑って、そしてさっきとは違う、声も上げずに涙だけをこぼした。涙は葉に降り注いだけれども、どこに落ちたのかは分からなかった。
ここで一旦話は途切れる。
森はうごめき、山はざわめき、空は噂した。
消えた、消えてしまった森の民はどこへ?
答える者はいない。
人々は忘れ去り、覚えているのはほんの一握り。
日が上り星がきらめいたのが数えきれなくなった後、また話は動き出すだろう。
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