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月は何を見せるか
はあーとため息をついて、空を見上げたのは三十にもなる農夫のグラスである。
ここはエルヴェ王国の都市クレエンに最も近い村だった。彼はここで生まれてからずっと畑を耕してきた。収穫の時期にでもなれば野菜を馬車に積んでクレエンに運び売る。こんなにも華の都に近いのにいつもいつもただひたすら泥にまみれる日々。別に今の生活が嫌いなわけではない。ただあそこに行く度に思うのだ。もし俺があそこで生まれてたならば、どんな生活を送ったんだろう。こんな日焼けした肌も風雨に晒されたしわくちゃの顔も。もっと上品で貴族様のようになったんだろうか。
まあ、そんな風に夢想していたので、呼び掛けられていたなんてさっぱり思わなかった。
「すいません、道を聞きたいのですが、…あの?聞こえていますか?おーい、聞こえてますかー?…ダメだこりゃ聞こえてない。」
ハッとして振り替えれば、一人青年が立っていた。
まるきり夜の闇を写したような黒い髪に黒い目。旅人のようで今までの旅路を語るようなぼろぼろのマントを体に巻いている。さらには、肩には美しい銀色の梟が止まっていた。
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