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そういうわけで、いわゆる自画自賛になっちまうけど、俺が今日果たす役目って、それなりに凄いわけよ。
俺がここに居ると、皆をいつも以上に温めてやることができるらしい。
まさかとは思うが、風邪もひかなくなるんだと。それも一年間という、ウイルスも顔負けのスーパーロングボーナス付き。
自覚は無いけれど、俺の身体からは、リラックス効果がある物質が溢れ出ているそうだ。居るだけで、周囲を優しく癒すことができる、生まれながらに授かった力があるというわけだ。
ちなみに、ウマいのよ。ソッチの方も。
皮にしても、実にしても。
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というわけで、今日は冬至。
俺、柚子は、自分の役目を果たすべく、力を振り絞っているからな。こうして溶け出した成分たっぷりのゆず湯で、今夜はしっかり温まってくれよな。
あ、たまたま今日は俺だけど、日本には「季節湯」という入浴方法の風習があるわけだから、毎月是非味わってみて欲しい。時期に合わせた旬の食物を湯船に入れ、その季節に合った効能が得られることを願う。身体を温め、 香りを楽しみながら、もうこんな季節か…なんてことを言い合いつつ、五感で入浴を楽しむなんて、最高の文化だと思わないか?
何、今時古いなんて、そんなこと言うなよ。
夏場の薄荷湯なんて、酷暑で何日も熱帯夜が続く昨今にも、十分利用価値がある。
秋の菊湯なんて、何だったかな、若者が熱くなってるSNS映え、も狙えるはずだと、俺は思うけどな。
な。聞こえたかな。
そうだよ、じっと俺を見つめてる、そこの。
今年はまだゆず湯には入れない、生まれたて、新入りの、君だよ。
そういうわけだからな。
この世は厳しいこともある。
だけど、しあわせは、それ以上にたくさん見つけられる。
疲れた時はお風呂で一旦リセットして、また次の一歩を踏み出そうな。あ、まぁそうだよな、ハイハイでも構わない!
来年、俺の子孫が、成長した君を含む家族全員と、元気に会えることを祈って。
だんらん、しあわせ、これからも。
そう願いながら、最高の時間を終えられたことが、正に俺にとっては幸せだと思った。全ての力を出し切り、俺の人生、いや柚子生は静かに停止した。風呂場から外に出される瞬間、かすかに誰かが、ありがとう、と囁く声が、耳に入って来た気がした。
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