4.初めての「美味」

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4.初めての「美味」

 やがて。  富豪の娘は、頭目を引き継いだ。  ブルタニユ家の貿易商としては、初の女性実業家が誕生した格好だ。  それまでは、女子供に当主が務まるものかと馬鹿にされて来たが、彼女はとてつもない勤勉家で、頭もよく切れた。見る間に業績を上げ、並み居る競合名家を跳ね除けて、ブルタニユ家にさらなる繁栄をもたらした。  と同時に、親類縁者へは平等に要職と地位をもてなし、反逆の芽を摘むことも怠らなかった。  先見の明と機転の良さを活かし、良好かつ盤石な経営体制を築いたという。  さらには貧困層への寄付を始め、雇用と住まいを提供し、貧富の差を根絶する奉仕活動にも尽力した。  ――無論、そこまでの道のりは険しかった。  取引に旅立てば命を狙われ、家に戻れば権謀術数。毒殺、謀殺、事故、何でもござれ。  だが、不思議なことに、彼女はまるで何者かに守護されるかのごとく、無傷で万難を乗り越えるのだ。  この理由について、のちに本人がこう語っている。 「どうしようもない身の危険や、窮地に陥ったとき、どこからともなく守護神が現れて、私を助けて下さるんです。顔も名前も存じませんけど、報酬にパンを一つだけ要求して来る、隻腕の守護神が」 了
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