3.初めての「殺し」

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 それは、親心だ。  師から弟子へ、親から子へ、連綿と受け継がれるべき生き様なのだ。 「いいか、一回だ、もう一回だけ言うぞ。今ならまだ目ぇつぶってやる、引き返せ。屋敷へ戻って、殺して来い」  師匠はそう言うと、目頭を手でこすった。  暗くてまともに視認できないが、双眸から何かを流している。  赤黒い何か。 (――血涙?)  青年は目を見張った。  どうする? どうすれば良い?  額に脂汗が幾筋も流れた。眉間にしわを寄せ、歯を食いしばり、拳を握って、足を震わせた。  躊躇する。逡巡する。狼狽する。  娘と師匠の両天秤が、頭の中で揺れ動く。  でも。  けれども――。 「すみません、出来ません」 「クソッタレがぁ!」
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