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師匠からの斬撃を、何とか紙一重でかわす。
急所への鋭い刺突は、どうにかよけた。
青年は左腕を伸ばし、師匠を捕まえようとする。もちろん、そんなもので本当に捉えられるとは思っていない。
師匠は鼻で笑うと、青年の左腕を、ものも言わずに一刀両断した。
ただの一振りで、音もなく。
血飛沫が舞い踊る。
青年は激痛で慟哭したくなるが、歯を食いしばってこらえた。
ここまでは計算のうちだ。師匠が腕を削ぎ、体勢を整えるまでの、わずかな予備動作、隙、空白、残心。――青年は、そこを突く。そこに全てを賭ける。
最初からこれが狙いだったので、行動も速い。この瞬間だけは、師匠の反応速度を上回った。
――師匠の心臓へ、青年の短剣が刺し込まれる。
彼の右袖に仕込んでおいた短剣だった。
「がはっ」
師匠はのけぞり、横向きに倒れた。
鮮血を路上へぶちまけながら、浅い呼吸を繰り返していたが、やがてそれも弱くなる。
最後に、蚊の鳴くような声量で、ぽつりと呟いた。
「何だよ――立派に育ってたじゃねぇか――」
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