3.初めての「殺し」

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「……お世話に……なりました」  深々と頭を下げる。  師匠がそれを認識できたかは、判らない。  すでに息は止まっていた。  ――勝った。  ただ、その事実だけが残る。 (俺は、生き延びた……ぞ……)  青年は虚ろな面相で、そう噛みしめた。  勝つには勝ったが、意識が朦朧とする。こっちも満身創痍だ。切断された左腕の断面を布で縛り、よろめきつつ歩き出す。  だが、出血が止まらない。傷がでか過ぎる。 (さて……どこへ行こう)  行くあてがない。  血もない。  体力もない。  痛みで感覚が鈍化している。  それでも、歩かなければいけない。 「……血が足りないな……だが、俺は生きなきゃいけない……あの娘に、見栄を張ってしまったから……絶対に、生きて……あの娘の行く末を、見……守……る……ん……」  言葉が途切れる。  青年は無言で、路地の影へ姿を消した。  寄るべのない、暗闇の深淵へ。 *
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