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1.初めての「仕事」
「いつまで寝てやがる! 起きろ小僧!」
男子――いや、もう青年と言って良い年齢だ――は、胴間声にどやされて、意識を覚醒させた。
(また、昔の夢を見てしまった)
夢。
彼がまだ路頭に迷い、乞食だった頃の、唯一の想い出。
あのパンで飢えをしのげたから、青年は生き延びた。
そして今、ここに居ることが出来る。
「早く起きろ小僧。そんな体たらくだから、てめぇは半人前なんだよ、このグズ」
「すみません」
青年は寝床から這い上がった。
寝床、と言っても茣蓙を敷いただけの、粗末な掘っ立て小屋である。
服装は黒衣。丈夫な麻で出来ているが、動きやすい。
青年を起こしに来た胴間声の主も、同じ服を着ていた。
ここでは、これが一張羅だ。
闇に紛れるための――暗殺者の正装。
「師匠、おはようございます」
「挨拶なんざどうでもいい。てめぇ、起きるの遅すぎ。俺が敵だったら三回死んでるぜ」
「そんな大袈裟な――」
「――これで四回目だ」
一閃。
師匠の姿が視界から消えたかと思うと、左脇の死角から剣の白刃が、青年に肉迫していた。
首筋にぴたりとあてがわれて、青年は二の句が継げなくなる。
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