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「てめぇは確か、生きることに貪欲だったんだっけか? 昔は盗みも殺しも平気でやってたんだろ? そんなてめぇを見込んで、俺が飼ってやってんだよ。いい加減自覚を持て。気ぃ抜いてんじゃねぇ」
「……すみません」
「俺の見込み違いだったら、てめぇなんざ、容赦なく切るからな?」
「はい」
「ったく……てめぇを見てると、昔の俺を思い出して嫌になるんだっつうの」
ふと、師匠の眼差しから怒気が消える。
ほんの一瞬だったし、何を青年と重ねているのかは測りかねたけれども。そもそも一人前の殺し屋が、過去を振り返って感傷に浸るなんて真似、するはずがない。そんなのは半人前の青年だけだ、多分。
「師匠、今何か言いました?」
「何でもねぇよ」
師匠はぷいっとそっぽを向いてしまう。
いつもこうだ。青年の心の垣根には容赦なく踏み込んで来るくせ、自分のこととなると突っぱねてしまう。
だが、毎朝起こしに来てくれたり、弟子として育てたりしてくれていることを考えると、意外と世話焼きな一面も垣間見える。
非情な暗殺者なのに、青年は奇妙な情を、信頼を、師匠に抱いても居る。
「よし――そんじゃ、朝の用件を伝えとく。今夜、アサシンギルドから仕事の依頼を持って来てやる」
「仕事ですか。俺に?」
だから、今日も世話を焼かれた。
斡旋だ。
「いつまでも半人前で飯が食えると思うなよ? 初仕事だ――殺して来い」
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