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殺し。
青年に、ようやくお鉢が回って来た。
暗殺者として、初めての一歩を踏み出す契機。
パンの味を噛みしめるという、ただそれだけのために、彼は何でもやって来た。受動的な物乞いではなく、能動的な泥棒や、強盗を繰り返すようになった。
師匠に拾われたときのことは、今でも覚えている。
あのとき、青年は民家へ押し入り、皆殺しにして、屋内にあったパンを貪っていた。そこで師匠と鉢合わせた。たまたま師匠の標的が、その家の主人だったのだ。
運命的な邂逅を果たした青年は、そのまま師匠に連れて来られ、暗殺者の訓練を受けるようになった。
身寄りのない彼が、素質を見込まれて得た、初めての家族だった。
「いいか、半人前。てめぇが仕事をこなしゃ、晴れて一人前だ。だが、しくじったら居場所はねぇと思え。そんときゃ俺が、てめぇを処分する。俺に恥かかせんじゃねぇぞ?」
「――はい」
青年は身支度を整え、武器を研いだ。
弧を描く、反りの入った短剣。
懐中に忍ばせ、すれ違いざま刺殺するのに最も適した得物だ。
これを数本、体のあちこちに仕込んでおく。いつでも取り出して、戦えるように。一本が壊れても、二本目、三本目を繰り出せるように。
*
「――依頼が来たぞ」
夜の帳が降りた頃、書状を抱えて戻って来た師匠が、青年に投げて寄越した。
小屋の裏庭で稽古に励んでいた青年は、師匠の不意打ちを警戒しつつ、それを受け取る。
木の皮を乾かして作られた安物の書状には、薄いインクでこう書かれていた。
『港町最大の貿易商、ブルタニユ家の跡取り娘を殺せ』
*
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