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姿を見られてしまったと、青年は焦った。顔にこそ出さないが、心臓が飛び出るかと思った。
いや、それだけではない。
もっと他に、衝撃的な事実がある。
この娘には――見覚えがあった。
(そうだ。この顔は――)
忘れもしない、あのときの路上。
青年がまだ、物乞いだったときの記憶。
飢えていた彼にパンを恵んでくれた、金持ちらしいドレスの少女。
――女はほんの数年で見違えるほど美しく成長すると言うが、その面影は残るものだ。決して消えやしない。
あのとき、男子の命を繋いでくれた女神が、目の前に君臨していた。
尤も、少女が青年を覚えているとは思えないが。
「貴様、俺の気配を勘付いていたのか?」
「いいえ」かぶりを振る少女。「今宵、殺し屋が来ることは知っておりました。なぜなら、私を殺すよう依頼したのは、私自身ですから」
「――お前が!?」
青年は目をしばたたかせた。
自分を殺すよう、自分で依頼した?
頭がおかしいのか?
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