2.初めての「侵入」

4/7
前へ
/18ページ
次へ
 姿を見られてしまったと、青年は焦った。顔にこそ出さないが、心臓が飛び出るかと思った。  いや、それだけではない。  もっと他に、衝撃的な事実がある。  この娘には――見覚えがあった(・・・・・・・)。 (そうだ。この顔は――)  忘れもしない、あのときの路上。  青年がまだ、物乞いだったときの記憶。  飢えていた彼にパンを恵んでくれた(・・・・・・・・・・・・・・・・)金持ちらしいドレスの少女(・・・・・・・・・・・・)。  ――女はほんの数年で見違えるほど美しく成長すると言うが、その面影は残るものだ。決して消えやしない。  あのとき、男子の命を繋いでくれた女神が、目の前に君臨していた。  尤も、少女が青年を覚えているとは思えないが。 「貴様、俺の気配を勘付いていたのか?」 「いいえ」かぶりを振る少女。「今宵、殺し屋が来ることは知っておりました(・・・・・・・・)。なぜなら、私を殺すよう依頼したのは、私自身ですから」 「――お前が!?」  青年は目をしばたたかせた。  自分を殺すよう、自分で依頼した?  頭がおかしいのか?
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加