2.初めての「侵入」

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「どういう――ことだ?」 「私は、ブルタニユ家の操り人形と化しました。家督相続に持ち上げられ、生活の自由はなくなり、跡を継いだ暁には、貴族との政略結婚も決まっています。そのくせ、反対派の親戚からは圧力をかけられ、策謀を練られて妨害工作の雨あられ……もう、疲れてしまったんです」 「疲れた? 意味が判らない」右袖(みぎそで)に仕込んだ短剣を握る青年。「死にたいなら、一人で勝手に死ねばいいじゃないか。なぜ暗殺者を雇った? しかも、屋敷の警備にまで手を回す念の入りようと来た」 「何者かに殺された方が、事件として大騒ぎになります。当然、疑いは親類縁者に及ぶでしょう。ブルタニユ家は疑心暗鬼に陥り、お家騒動に発展しますわ。この腐りきった富豪の家を崩壊させる序曲となるのです。そのための布石は、方々に打ってあります。暗殺を依頼する書状を親戚宅に偽造しておいたり、私を疎んじるような証言を残させたり。それが、私のささやかな抵抗であり、復讐です」  疲れた、とのたまう少女は、儚げに微笑んだ。  あいにく月明かりさえない暗がりの深淵では、その薔薇のごとき笑顔を鑑賞する手段は稀少だったが。 「なぜ俺に事情を話す? 黙っていれば、今頃はもう殺し終えていたのに」 「私の意図をお伝えしたかったのです。しっかりとお家騒動になるよう、明らかな他殺だと判る凄惨な死にざまを、演出して欲しいので」 「……そんなことのために」 「そんなこと? 私は真剣です」  駄目だ。上流階級の考えていることは理解できない。  やがて、青年は溜息をこぼした。  短剣から手を離し、臨戦態勢を解いて、娘に背を向けた。
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