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「お父さんいないね。どうしたの」
「いつものアレよ」
「今度は何……」
「お食事が終わっても卓袱台から動かないから、お掃除しますから移動してください……って言ったら怒ったのよ」
「ふうん、子供みたいね」
「そうね。子供みたい」
「お父さん、今度はどこ行ったんだろう。雅子おばちゃんの所かな」
「さあ」
「呼んでこようか」
「お仕事の催促が来たら頼むわね」
「いつ来るの……」
「塩梅からいえば、明後日か、明々後日……」
「じゃあ、今日のうちに捕まえないと、お父さん、逃げちゃうよ」
「お父さんだって、お金がないから行先は知れてるわよ」
「でも前は新潟にいたじゃない」
「知り合いを頼ったのよ」
「お母さんの知り合い……」
「……じゃないけど、わかるのよ、大抵。どこに隠れたかくらい」
「すごいね」
「すごくないわよ。ちょっと記憶が良いだけ」
「わたしもいろんなこと覚えるのが得意なのは、お母さん譲りね」
「ああ見えて、お父さんの方がすごいのよ」
「また始まった」
「何が……」
「お母さんの、お父さん自慢」
「だって、お父さんがお母さんの持ってる一番いいものだから」
「世間の人なら離婚してるってさ」
「離婚しても無駄よ」
「どうして」
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