こんなところにいた!

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 8D病棟。当院の最上階にある緩和ケア病棟。癌の治療を終えた人や、手術や治療を希望しなかった患者が余生をよりよく過ごす為の病棟だ。そこには緩和ケア専任医師が常駐している。治療は俺たちのような一般の医師が行い、患者の選択と希望を確認し、主治医が変更になることもある。しかし、主治医の変更は俺のポリシーと反する。そのため、俺の患者も時々お世話になる病棟だった。見晴らしのいい最上階にあるのも、閉鎖的になりがちな患者がより良く過ごすための配慮だ。しかし、8階。医療者はなるベくエレべ一夕一を使用しないというお達しのため、俺ま今ひたすら階段を登っていた。  四十のおっさんにはキッツイんだよなぁ...…。  やっと八階までたどり着き、切れた息を必死で整えた。そして、白衣の襟を正して、ナースステーションに向かう。息が切れている所を見せたくない、俺のプライドたった。電話の主を探せば、残薬とパソコンを交互に睨んでいる小村主任がいた。  抑揚のない声に、きっちりと縞められた髪。厳しさを象徴する細いフレームのメガネ。 いつもマスクをつけているせいか、笑った顔など見たことがない。俺の最も苦手とする人物。それが小村主任だった。どうやって声をかけようか悩んでいたら、小村主任は、背中に目でもあるのか、振り返らず、「欲しいものは力一デックスの中に纏めてあります」と言った。 「背中に目なんかありませんよ」 「え!?」  考えていたことを読まれ、俺の肩がびくりと跳ねる。エスパーか?と言おうかとも思ったが、無視されて終わりだろう。そう思った俺は、口を噤んだ。 言われたことだけやって、患者の顔を見たら早々に去ろう。そう決めて俺は業務に取り掛かる。     
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