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名前を呼ばれると、天にも昇る心地だ。こいつは俺を天に連れて行ってくれる天使なのではなかろうか?そんな非現実的なことまで考えてしまう。それほどまでに俺はこの行為に、女に、自分に酔っていた。そのせいで一番大事なことを忘れていた。
「っ、ふ、で、る」
「あ、んん、な、なかは、ダメ……っ」
「ってるって……!」
最奥にぶちまけたい衝動を必死に堪えて、俺は腰を引いた。揺れる尻の間に数回擦り付けて、白濁を撒き散らす。どろりとしてそれは、異物のように、天使の白い背中を汚した。天使が、地上に堕ちる。そんな倒錯めいた事を俺は思ってしまった。
柔らかい身体と、甘い声。それに溺れた夜だった。酔ってはいない。けれども、素面とも言えない。一人の女に誘われ、応えたそんな夏のある日。
「……こし、いてぇ」
素肌に纏わりつくシーツが、少し湿っていた。
身体を起こして周りを見渡すが、昨日夜を共にした女が居ない。窓から降り注ぐ夏特有のギラギラした日差しが、もう朝でないことを教えてくれた。そして、サイドボードに置かれた一枚の紙が目に入った。
『佐鳥有志さま。昨晩はありがとうございました。お先に失礼させていただきます。あと、お菓子、一つだけ頂きました。』
少し筆跡の濃い、流れるような字でそう書いてあった紙を、俺は握りつぶす。手紙の横にある、一つだけ空白のできた菓子箱を投げ飛ばしたい気分だった。
「ちきしょう!何処に行きやがった!?」
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