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こんなところにいた!
ピーと、コーヒーができた音で我に返る。その音を合図に、俺は普段は食べないお茶請けを手に取る。天使が食べたがった高級菓子とはかけ離れた安物だが、何故か食べてみようと思った。少しでも繋がりが欲しかったのかもしれない。
「ほんっとに囚われちまったな……」
天使が菓子を食べる瞬間を想像しながら、小さなクッキーが入った袋を開ける。その瞬間だった。内視鏡施行中は、マナモードにしていPHSがけたたましく音を立てた。思わず舌打ちをして画面を見ると、8D病棟と表示されている。げっと声が漏れそうになるのを堪え、平静を装ってコールに応対する。
「佐鳥です」
「病棟小村です。 先生、高林さんの点滴の継続指示出ていません」
「…… それ今じゃなきゃだめ?」
「……わかりました。では、モルヒネ《鎮痛剤》もラシックス《利尿剤》も点滴も今日は行かないということですね。 分かりました。そのように家族に伝えます」
では、 と電話を切られそうになった所で俺は慌てて小村看護師を引きとめる。
「わー! まて! 今行く!」
「お待ちしています」
慌てた俺に対しても、抑揚のない声。暖かいコーヒーを背に、俺は虚しく8D病棟に向かう。
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