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 小村さんの願ったとおり、緩和ケアに移行しても主治医は俺のまま。そして、小村さんはすぐに入院することとなった。食欲低下や、日常生活を一人で送ることができなくなった為だ。 「あら、そうかしら?」 「そうですよ。この間夜に顔を出したら『遅い! こんな遅くなら来なくていい! 早く帰りなさい! 』って、矛盾して怒ったじゃないですか」  爽やかな秋風が入る病室。小村さんは、やはりよく笑う、変わった人だった。 「お酒が飲みたいわ」 「……うーん。舐める程度なら」 「先生と飲んでみたいわ! 今度ぜひうちにいらして! 唯子、酒屋さんにビールお願いしておいて!」 「はいはい。おばあちゃんの言う通り、いつでも瓶ビール三本はストックされてます!」 「いいですね。俺もビールが一番好きです」 「今日は、三好さんが来てくれたのよ。先生、そこにある梨、持って帰って?」  小村さんの病室には、毎日と言っていいほど、誰かがお見舞いに来ていた。  周りに人の集まる、よく笑う人だった。しかし、病魔は確実に小村さんの身体を蝕んでいた。ついに、ほとんど食事をとることが出来なくなったのだ。  食べられなくなったら、生命活動の終わりが近づいている。人間らしく死にたいという本人の希望の元、点滴はしない方向になった。その時も、小村さんは笑っていた。     
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