花は散るものを

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急がずとも、今日のうちには京に着くはずである。しかし、故郷を前にして、私は去りがたく思われて、草津に泊まることにした。もっともそれは、数日前から決めていたことだったが。 私の身を気遣い、家臣達も賛同している。 新たな領地となった陸奥は、遥かに遠い。その陸奥を出てきたのは、先月のこと。今日はもう二月七日だ。 一ヶ月かけて、ようやく故郷のこの近江にまで来ることができた。 明日には京の屋敷に入って、妻と再会できる。しかし、すぐに大坂城へ赴かなければならない。 秀吉、いや、太閤が吉野へ花見に行くという。同行を命じられたのだ。 会津百万石の大名が、遅参などあってはならない。年末に会津に戻ったばかりでこの強行軍は、さすがに身に堪えるが。 「花見には丁度良いか」 馬の背から伸び上がって見回せば、周囲の桜は蕾が膨らみ、いよいよ開花が迫っている様子。 下旬に予定の太閤の花見。丁度満開だろう。 家臣達を引き連れてのこの長旅。過保護な家臣達に、時々駕籠やら輿やらに乗せられたが、今日は馬だ。 武士が輿なぞ恥。近江は馬で通らねばならぬ。 前の宿で、行列の者全てを着替えさせ、美々しく雄々しく飾り立てた。全ての馬沓を新品にした程、その支度は抜かりなく。
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