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数百年前の夜、立派な桜の木に男が縛り付けられている。桜と男を囲むのは、松明や弓矢を持った数多の兵士達と……。
「いやぁ、やめて!あの方は何も悪うございません!」
兵士達に羽交い締めにされた女がひとり。
「黙れ!お前の男は国を裏切ったのだ」
桜に縛り付けられた男、桜火は困った様な笑顔で女を見つめていた。
「何を笑っているのか知らぬが桜火よ、せめてもの情けだ。女に何か言い残す事はあるか?」
「ありがとうございます。八重、私は幾千年もそなたを想う。例えばこの身が朽ち果てようと、魂はいつもそなたといよう」
桜火はそう言って優しく微笑んで見せた。
「桜火様……」
八重は涙を流し、振り絞るように愛しい人の名を呼ぶ。
「放てぇ!」
大将の掛け声で身動き出来ない桜火に松明が投げつけられ、弓矢が放たれる。
「いや、いやああぁあぁぁああっ!!!桜火様ぁー!!!」
八重の悲痛な叫びは炎の音と男達の怒声でかき消される。
着物に炎が燃え移ろうが、矢が体を射抜こうが、桜火は穏やかな笑みを絶やさなかった。
炎が桜の木と桜火を焼き尽くして鎮火してようやく、八重は解放された。
フラつく八重の肩に男が手を置く。顔を上げ、八重は小さな悲鳴を上げた。
八重の肩に触れた男は国を裏切り、その罪を桜火に全て擦り付けた張本人なのだ。
「お気の毒様」
(どの口が……)
口を開きたくとも開けない八重は、手を払うと無残に焼き残った桜火の遺体の元へ。
座ると焼けた土で火傷をするが、そんなものに構ってられなかった。
『八重、私はそなたを永遠に愛し続けよう。朝日が昇ろうが闇夜が訪れようが、四季が変わろうがこの想いは変わらぬ』
いつか桜火が八重に言った言葉を思い出し、枯れたはずの涙が流れる。
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