夏の速度と、蒼い海症候群①

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『ただいま、御茶ノ水防衛線の定点カメラからの映像をご覧いただいております。本日も真っ青な東京海に浮かぶスカイツリーがきれいですねー。本日は比較的“敵”の来襲が穏やかですが、安全のためにくれぐれも海岸には近づかないようにしてください。このあと一三時半から気になる天気予報、そしてそのあと週間“敵”来襲予報をお届けします。今年の夏も暑い日が続く見込みです、熱中症にはご注意ください。それではみなさん、よい週末を』  地球温暖化により、この国は国土の多くを失った。海岸線は後退し、都市は海に沈んだ。東京の首都機能は完全に麻痺し、この国の発展の象徴であった超高層ビルは青い海に浮かぶ単なる金属の塊となった。  そしてこの夏の始まりに、なんの前触れもなく”敵”は襲ってきた。”敵”は海から来襲し、建物や家屋を破壊し尽くして、沿岸部にあった都市の大多数は壊滅した。自衛隊やアメリカの軍隊が駆けつけたが、”敵”はそれらを上回る力で攻めてきた。温暖化による海面の上昇、海岸からの”敵”の来襲により、人間は海に近づくことができなくなった。私の住んでいた赤羽のアパートは、海に沈みこそしなかったものの、進出した海の目の前という立地により特定沿岸危険区域に指定され、住むことができなくなった。海からいつ”敵”が来てもおかしくはないのだ。必要最小限の荷物を持って、私は秩父にいる祖父たちのもとへ疎開することにした。     
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