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妙ちきりんなその彼の言葉を聞いて、私はすこし笑ってしまった。いや、なにかがおかしかったわけではない。きっとなにかの小説の受け売りなんであろうその言葉が、いまの私にとってはひどく他人事のように聞こえたからかもしれない。
「どういうことなの?」
「”I was born”、だよ」
「『わたしは、生まれた』?」
「うん、『生まれた』なんだ。”be born”、受動態なんだよ。この世に生まれることに、自分の意志は介在しない。『踏む』と『踏まれる』、『撃つ』と『撃たれる』。それと同じように、僕たちは両親の『生む』という行為によってしかこの世に現れることはできない。彼らの身勝手な性行為によってのみ、僕らは『生まれる』ことができる。それはある種の病気のようなものだ」
「ちょっと……よくわかんないんだけど」
「澪はどう思う?」
「どう思うって――」
「僕はいやなんだ」
彼はもうほとんど空になったコーヒーのグラスをあおり、口のなかに黒い液体を流し込んだ。そして、注文前に店員が運んでいた水に手を伸ばす。彼がこんなに飲み物を欲しがるのをはじめて見た。のどが渇いてるんだろうか、それにしてもペースが異常だ。私がSサイズのカフェオレを飲み終わる前に、彼はもう水も飲み干そうとしている。
「僕はいやなんだよ」
「なにが?」
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