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夏の速度と、蒼い海症候群②
秩父での暮らしは穏やかに過ぎていった。
”敵”の戦力は強大だが、どうやら水のそばでないと活動できないらしく、内陸部の町は戦争の影響を受けることがない。沿岸の都市は壊滅したが、内陸は安全だということで、私はここ秩父に疎開することに決めたのだ。
テレビのニュースは、はじめのころは連日戦争の話題を報道していたものの、戦争が膠着状態となると、しだいに報道しなくなった。芸能人の不倫報道、政治家のカネの問題……公共の電波に乗せて垂れ流される下衆な話題の数々をぼうっと眺めながら、私は過ぎ行く日々を過ごしていた。
その日も私は、垂れ流されるニュース番組の映像をなんとはなしに見つめていた。自衛隊の軍備強化のための財源を確保できるよう、首相が増税を検討している、と言っている。祖父がとなりで「今月もきついってのに、政治家はなにをやっとるんだ」と不満を垂れている。そろそろこっちで仕事みつけないとなあ、とのんきに考えごとをしていると、ニュースは次の話題に切り替わった。
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