放たれる②

2/6
前へ
/19ページ
次へ
 その正しく公平な世界のなかで、卒業式は粛々と執り行われた。和泉はたくさんの友人たちと言葉を掛け合い、卒業を祝い合っていた。私はその輪のなかに入らなかった。たびたび和泉がこちらを気にするそぶりを見せたが、私は応えないようにした。私の望むのは一時の慰め合いではない。和泉と一緒に永遠の自由を手に入れることなんだ。和泉、あなたならわかってくれるよね。これはあなたのためなんだよ。  そして、やはり両親は式に来なかった。それももうどうでもよかった。私という物語のなかで、句点の場所はもう決まっている。あとはそのときを待つだけだ。  式が終わったあとに向かった屋上で、私はオレンジ色に煌めく夕陽を見た。  鞄からスマートフォンを取り出し、画面に映った時刻を確認した。 「そろそろかな」  電話アプリを呼び出して、着信履歴にたくさん表示されている、ひとつの名前に触れる。しばらくのコール音のあとに、『もしもし』と電話口から声が聞こえた。 『小夜子? どうしたの?』  電話の向こうからでも、和泉は私の心臓に触れる声でささやいてくれる。 「……ううん、なんでもない。ちょっと声が聞きたくなっただけ。和泉、いまどこにいるの」 『そう? 小夜子から電話なんて珍しいね。部活の最後の集まりが終わっていま帰るとこ。このあと……待ち合わせがあるから』 「……うん」  私は視線を落とし、眼鏡を弄んだ。  何も知らなければよかった、と思った。知らない街の知らない空。すべてが他人事でできている世界。 「卒業おめでとう」 『うん、小夜子も卒業、おめでとう……小夜子、昨日はごめんね』 「どうして謝るの」     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加