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やっぱり和泉はすごいなあ。彼女はそうやって、自分の意思でやりたいことをやって、言いたいことを言って、行きたいところへ行ってしまう。そこに私は追いつくことができない。あいまいに笑って、黙って眼鏡をいじくることしかできない。自分という檻のなかに閉じ込められたまま。
いやだな、と私は思った。こんな惨めな自分のまま高校を卒業して、和泉と離ればなれになるのは、いやだった。
和泉みたいになりたい。
和泉みたいに自由になりたい。
レンアイ。何気なく言ったであろう和泉のその言葉は、私の心の奥底にはっきりと深く根を降ろした。その歪んだレンアイは、私の心から養分をどんどん吸い取って、ぶくぶくに肥えてしまうだろう。誰の目にも触れない暗いところで、私の「レンアイの亜種」は、その根を膨らませ、葉を茂らせ、真っ白な花を咲かせる。
「卒業、しちゃうんだね。あたしたち」
「……うん」
「どう、小夜子? 高校生活、楽しかった?」
なにも知らない彼女は、そのままの笑顔で訊ねてくる。
きれいな瞳。
その視線に、息を呑む。
「……うん」
私は時間をかけてうなずいた。それを見た和泉は、「よしよし」と満足そうに目を細める。
楽しかったよ、和泉。当たり前でしょ。
だって、こんなにたくさん、あなたとお話できたんだから。
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