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和泉と過ごした時間。それらはすべて、私にとってかけがえのないものだ。一緒にカフェに行ってバイト先の先輩のグチを聞いたり、一緒にケーキ食べ放題に行ってお腹こわしかけたり、一緒にカラオケに行ってあなたの歌声を聴いたり。どれもささいなことだったけれど――和泉にとってはささいなことだっただろうけれど、私にとっては大切な思い出。私の人生に彩りを与えてくれた、宝ものの思い出。
和泉、あなたはどうだった?
私と一緒にいて、楽しいと思ってくれた?
「小夜子がそう思ってくれてたなら、あたしは満足だ」
私は自分のつま先を見つめた。和泉はそういう子だ。自分の楽しみは二の次で、他人を喜ばせることばかり考えている。私が楽しければそれでいいんだ。
……じゃあ、和泉は楽しくなかったのかな。
よほど不安そうな顔をしていたんだろう、和泉は私の表情を見ると、私の頬に手を当てて、諭すようにささやいてくれた。
「小夜子が楽しければあたしは楽しいし、小夜子が嬉しいなら、あたしも嬉しいの。小夜子が悲しかったらあたしも悲しいんだから、そんな顔しないでよね」
ぺちん。頬に当てられた手で、そのままおでこをたたかれた。
「あたしも楽しかったってこと。小夜子ならわかってくれてると思ったのに」
おどけたように頬を膨らませる。
「……うん」
私は和泉にたたかれたおでこをさすった。そんな私の仕草を目にして、彼女はいたずらに微笑む。
甘い痛み。私の心を撫でるようにくすぐる、和泉の言葉と動作、そして表情。
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