放たれる①

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 私はこれで充分だった。卒業式の前日、だれもいないふたりきりの教室で、私と和泉は笑い合っている。私にとってはそれだけでよかった。これもまた、私の人生を彩る思い出のひとつになっていくんだ。  でも――ひとつだけ願いが叶うなら、この時間が永遠に続けばいい。和泉と過ごすこの時間が、私のすべてになればいい。  和泉はどうかな。  私のささやかな願い、受け止めてくれるかな。 「そうだ、小夜子は? 小夜子の好きな言葉はなに?」 「わ、私? 私は……句点、かな」 「クテン?」  和泉は不思議そうに小首を傾げた。 「『まる』だよ、『まる』」 「『まる』……?」  彼女はそう言って、右手の人差し指と親指で輪っかをつくり、私の目の前に掲げた。  きれいな指。 「作文とかで使う、あのちっちゃな丸のこと?」 「そう」 「へえ!」彼女は心底驚いたようだった。「あんな丸のこと、好き嫌いで考えたことなかった」  ふつうはそうだろうな。やっぱり私はどこか異常なんだと思う。どこか歪んでいて、壊れていて、狂っている。 「なんで? なんで丸が好きなの?」 「それは……」私は逡巡した。「……制約だから、かな」 「セイヤク?」  彼女は異国の言葉でも聞いたように、私の言葉を繰り返した。     
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