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「言葉は句点を超えて存在することはできないの。句点があれば、それは言葉の終わり。そして句点がなければ、物語は語られることができない。物語のなかでぜったいにないといけない言葉なんてないけれど、句点は使うのがルールでしょ。それが言葉の制約であり、限界なの」
「……?」
「わからないよね」
「うん、ごめん、ちょっとわかんなかった」彼女は正直だ。もし私だったら、あいまいに笑うことしかできないだろう。
「でも、小夜子、制約とか限界とか、そういうのが好きってこと?」
「そういうことかな。不安なんだ、『ここまで』って言うのが決められていないと」
物語の限界、言葉の制約――それはつまり、そこから先は何かを伝える手段がないということ。伝達手段がなければ、自分の感情が漏れ出ることもないし、逆に言えば、誰かの言葉で傷つけられることもない。
いわば檻のようなもの。自分の感情と、外の世界との、はっきりとした境界線。
十数年間、私はそうやって生きてきた。
「やっぱり小夜子はすごいね。あたしの知らない本、たくさん読んでるもんね」
「べつにすごくなんか」
「大学行かないなんて、ほんとにもったいない。小夜子頭いいんだから、ぜったいにすごいひとになるのに」
「……」
和泉に悟られないように、スカートに隠れた膝頭の青あざをさすった。でも、和泉はやっぱり勘が鋭い。わずかに揺れ動いた私の心の機微を、感じ取ってしまう。
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