放たれる①

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 私は繰り返し言った。このまま卒業したくないという思いが、私にここまでさせたのかもしれない。後悔はなかった。私は自由になりたかったんだ。和泉みたいに、自分の言いたいことを言って、やりたいことをやって、伝えたい思いを伝えて――後悔はなかったはずなのに、私の感情に急に句点が穿たれたみたいに、それ以上言葉を発することができなくなっていた。  和泉は一歩後ろに退いた。そして、「ごめん」という一言。  私は視線を落として眼鏡を弄んだ。そのとき、私の心と和泉のいる世界とのあいだに、はっきりと境界線が描かれているのが見えた。 「あたし、付き合ってるひとがいるの」 「……そうだよね」 「すごい優しくて、いいひとで、頼りがいがあって、それで……男の子、で」  彼女は力なげにうつむいた。長い髪がはらはらと垂れ下がった。  きれいな髪。  艶やかな輝きを放つキャラメルブラウンの髪から、私は目が離せなくなった。いますぐ彼女のもとへ駆け寄って、きれいな髪の上から、優しく頭をかき抱いてあげたい――そして、いますぐぎざぎざに切り刻んで、和泉の泣く顔も見てみたい。どんな顔で泣くんだろう。きっと、泣き顔もきれいだろうなあ。  私の心の中のどこか深いところで、ぴちゃん、と雫がこぼれ落ちた音が聞こえた。 「あと、あたし、そういうの無理だから」  そう吐き捨てるように言うと、和泉は小走りに教室を去っていった。  私はその後ろ姿を、いつまでもいつまでも見つめていた。     
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