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「さぁ、何が欲しい?」
彼女は、俺の肩を掴み、体を寄せ、耳元で問いかける。
俺には欲しいものなんてない。あるのは後悔だけ。このつまんねぇ世界で培ったバカみたいな後悔だ。
だから
「…別に、欲しいもんなんてねぇよ。欲しいもんなんて、頑張れば手に入れられるから、お前からもらうもんなんて無い」
俺はあえて、この女神を突き放すように、そう言った。
だけど女神は食い下がる。
「君の持つ後悔、それも、君が頑張ればどうにかできるの?」
「…」
この女神は人の心が読める能力でも持っているのだろうか。女神なんなら、それくらいの力、持っているのかもしれない。
そうでなければ、どうしてこうも、俺の心を簡単に見透かしてしまうのだろうか。気味が悪いほどに俺のほしい言葉を投げかける。
だけど、俺はアレから逃げてもいいのだろうか。
あの時のあいつの憎しみから逃げても、許されるのだろうか。
「いつまでも君を苦しめるあの日の記憶、あの女の記憶。彼女は君を恨んでいたようだね。でも、あれは昔のことだよ。君を恨んだ彼女はもういない。…なのに、なんで君は忘れられてないの?」
どうしてかなんてわからない。
ただ、忘れちゃいけない気がするから、ずっと忘れられないでいる。
「ずーっと、苦しいままでいいの?」
…
「過去のことを、忘れたい」
「…なら、私はあなたに何を与えればいい?」
俺は息を吸い、レイナの金色の瞳を見つめる。そして、ひどく楽しげなその目に願う。
「俺を、逃してくれ。どこでもいいから、あいつのことを忘れられる場所に」
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