御伽の鳥

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わたしが藤島(ふじしま)家へと奉公に出されたのは、(およ)そ三年前───わたしが十四となった春のことで御座いました。 「()()と申します。今日からこちらでお世話になります」 畳の上で伏していたわたしは、縁側に座る女性の、千代、と呼ぶ清らかな御声で顔を上げました。 そして、はっと息を呑んだのです。 「とても、可愛らしい方ね」 長い(まつ)()に覆われた優しげな瞳。 透き通る硝子細工のような白い肌。 腰元で揺れる艶やかな黒髪。 わたしが今までに出逢ったどの人よりも美しく、華奢で儚げな女性。この御方こそが、わたしが女中としてお仕えする藤島家当主の妻、(さくら)()さまに御座います。 口元に手を当てて微笑む櫻子奥さま。その仕草一つ一つにも、一朝一夕には身につかないような洗練された美しさがあり、わたしはこの御方をまるで別世界の住民のように感じておりました。歳はわたしよりも三つ上だと聞かされておりましたが、それにしても大人びた御方だと思いました。 そうしてわたしは奥さまに対し目も合わせられないほど()(おく)れしてしまうあまりに、つい可笑しなことを口走ってしまったのです。 「千代と申します……今日からこちらでお世話になります……」 あろうことか初対面での御挨拶をもう一度繰り返してしまったのです。何度も何度も練習して身体に染み付いていたのが、(かえ)って(あだ)となりました。わたしは顔から火が出るような思いでした。 奥さまは目をぱちくりさせなすったものの、すぐに可愛らしく微笑んでくださいました。その花開くような笑みに心奪われたわたしは、何とも間抜けな阿呆面で奥さまを見つめ続けていたのです。 それからというもの、どうやらわたしをお気に召してくだすったらしい奥さまは、度々(たびたび)わたしのことをお呼びになりました。女中仲間のお(たき)さんに、奥さま付きの千代、と微笑(わら)われてしまうほどに。
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