御伽の鳥

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その夜、わたしは空っぽの頭で奥さまの寝屋の傍を歩いておりました。旦那さまがお帰りになられた夜は近付かないようにと、奥さまにあれほど念を押されていたというのに。 そして奥さまの寝屋の前に差し掛かったところで、中におわす旦那さまが他の女性の名前をお呼びになるのを聞いてしまったのです。 頭が混乱しました。わけが分かりませんでした。早まる動悸を感じながら、わたしは慌ててその場を走り去りました。 けれど確かに旦那さまはお呼びになったのです。 奥さまのことを───雲雀(ひばり)、と。 自分の部屋に駆け込んだのち、わたしは一睡も出来ぬまま夜を明かしました。 違和感の正体、大旦那さまの失踪、雲雀さまの病死───わたしが布団の中で辿り着いた答えは、口に出すのもはばかられるほど道徳に反したものだったのです。 その憶測を確かめるために、わたしは翌朝早く、旦那さまの書斎に無断で忍び込んで『()る物』を探しました。引き出しの奥、本棚の隙間、本の中。探していたそれは、旦那さまの古い手帳に挟まっておりました。 日に焼けて色褪せた台紙。そこには大旦那さまと幼き頃の御兄妹が写っておいででした。 『或る物』とは、藤島一家の御写真。わたしは雲雀さまの御顔を見た瞬間、すべてを理解したのです。わたしの憶測は(およ)そ間違ってはおりませんでした。 奥さまと旦那さまは、血の繋がった実の御兄妹だったのです!
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