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以前、旦那さまに嫁いでこられた時のことを、奥さまにお聞きしたことが御座います。すると奥さまは困った顔をなすったので、わたしはそれ以上何も申し上げることが出来ませんでした。
けれど無性に気になってお瀧さんにも聞いてみたのですが、首を振って知らないと云いました。お瀧さんによれば、奥さまの御輿入れについて知っている者はこの家に一人もいないと云うのです。
旦那さまは、奥さまの御輿入れと同時に以前からお仕えしていた下女を一人残らず入れ替えてしまわれたのだと。
それは、雲雀さまと櫻子奥さまが同一人物であることを隠すためなのではないのでしょうか。
思えば、奥さまほど旦那さまに似ておられる御方はおわしませんでした。それは実の御兄妹であるからだと、何故今まで気付かなかったのでしょう。
嗚呼、ともすればあの櫻の木の下に埋められているのは───。
大変厳格な性分であったと云う大旦那さまが、御兄妹の関係を知り、どんな反応をなさったのかは想像に難くありません。
奥さまがあやめてしまわれた二羽の鳥。それは御兄妹の幸せのために犠牲となられた藤島家の人間、つまりは大旦那さまと雲雀さまだったので御座います。
とは云え、所詮はわたしの妄言に過ぎません。どこまでが真実で、どこまでがわたしの作り噺なのか───それを知るのは奥さまと旦那さま、そして大旦那さまのみで御座いましょう。
穏やかな春の昼下がり、やはり今日も、奥さまは縁側に座っておいででした。わたしが後方に控えておりますと、奥さまはわたしを振り返り、ふっと微笑いなすったのです。
息が止まるかと思うほどに綺麗な微笑みでした。
「───千代」
この御方は、わたしの一連の行動に気付いておられるのだと思いました。その上で、わたしに覚悟を求めておられるのだと。
ですが、わたしの心は一年前、この御方に初めてお逢いした時から決まっておりました。この御方がお伸ばしになった御手を取って生きることが出来るなら、わたしはこの御方の傍らで、死ぬまで囀り続けることも厭わないのですから。
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