御伽の鳥

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まるで罪人を(とが)めるかのように、枝垂櫻がこちらを見ているような気がしておりました。 奥さまはわたしがこの家を出てゆくことを永遠に赦さないでしょう。きっとわたしがこの家を出て羽ばたくと同時に、わたしはあの枝垂櫻の下に沈められるのです。 奥さまの言葉をお借りすれば、すでにわたしも鳥籠の中の鳥なのでしょう。呪われた夫婦の秘密を抱えたまま、どこに行くことも出来ず櫻とともに朽ち果てるだけの。 けれどもわたしは、それで構わないとさえ思っております。 枝垂櫻の花言葉は優美、そして()()()し。わたしはあの櫻の下におわすであろう大旦那さまの亡骸(なきがら)から、目を逸らしたまま生きてゆくのです。 何故わたしが逃げ出すことも考えず、固く口を閉ざしてまでこの家に留まるのか───それこそが奥さまも御存知でない、わたしの身の程知らずな今生の秘密に御座います。 わたしはこの淡い秘密の数々を、墓場まで持っていきましょう。ですから今だけは、あの美しくも不安定な御方の傍に在りたいと思うのです。 ───この幸せを唄う鳥籠の中で。 【御伽の鳥 完】
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