1.夏色(1)

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 後で母親から聞いた話によると、運び込まれた初日の目覚める前、塚本本人と父親の代理という人が病室に来ていたらしい。  丁寧な謝罪をしてくれたうえに、検査費入院費等全額負担するとまで申し出てくれたのだと。  「とんでもない! 非はほとんど鉄砲玉の娘にあるので!」  ――と、あの母もさすがにそれは突っぱねたらしいが。  ただ……  「しまったあぁ! もし傷とか残ったら責任とって嫁に貰うって一筆かいてもらうんだった!」  と母に歯ぎしりされた時には呆れて言葉も出なかった。 (母よ……。残念なことに、あなたの娘はたとえ傷が無くても……ゴニョゴニョ……) 「――もう、完全に大丈夫なのか」  回想の中でげんなりため息をつく彩香に、相変わらず感情のこもらない表情と声音で塚本が訊ねた。 
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