1.夏色(1)

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「明日以降、いつ退院してもいいですよー」  『なるべく』レベルの安静生活四日目の月曜日。  母とともにナースステーション内の一角に呼び出されるなり、担当の男性脳外科医が朗らかに宣った。    「えっ……あ、あの……もう大丈夫、なんですか?」  「脳挫傷」という診断名から、自分はもっと……なんというか重篤な状態にあるのだと思っていた。  それこそ入院期間も数週間から数ヶ月を要するような。  もちろん知識も何もあるわけではなく、イメージ先行の思い込みだったに過ぎないが――。 「ああ、娘さん本人にはまだお見せしてませんでしたねー」  唖然とする彩香にカラカラと笑いかけ、中年医師が手元のキーを操作して、白黒画像が表示されたモニターを向けてきた。
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