1.夏色(1)

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 驚いてつい放り投げてしまいそうになるものの、いやいやいやっ!とあらためて握る指に力を込める。  そんな乱暴に扱えるわけがない。  自分でもバカだと思ってしまうけれど。 「それって、数学教えてもらった時の?」 「……うん」  それまでは何てことのないただの私物だった。  好きな人の手に触れたと思うだけで、宝物のように思えてくるから不思議だ。  あの直後の中間テストではゲン担ぎの意味も込めてすべてこのシャーペンで解き、それ以降も気付けばこればかり使っている。  入院中も用もないのにずっとサイドテーブルに置いておいて――。 「――って、き、キモいかなあたし? ……引く? 引いた? 引いたよね!? もうダメだ終わったあたしぃぃぃ!」 「こらこらこら彩香」
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