第一章 引越ししました

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 ----405号室  部屋番号の下、ネームプレートに刻まれた二つの名前を横目で見ながら、亜麻色の床に最後の段ボール箱を置くと、ふぅ、っと溜め息をついて額の汗をタオルで拭った。  リビングの一角に寄せられた20個程の段ボール箱を眺めると、改めて自分の持ち物の少なさに驚く。しかも、荷造りをする時に気付いたが、中身はほとんどが黒系の衣類や小物ばかり。  「拓海ぃ~、お前の部屋こっちで良かったんだよな?!」 そう言ったのは、俺より先にここへ来ていた男で。 渡部 淳(ワタベ アツシ)は、俺の中学からの親友で今は恋人。俺の名は、山城 拓海(ヤマシロ タクミ)。 先日、誕生日を迎えて24歳になったばかりの社会人2年目。  「どっちだっていいさ、どうせ寝室は一緒なんだから、要は荷物置き場なだけだろ?!」 床に置いた箱のガムテープを剥そうとして、しゃがみ込んだ俺が言うと、アツシは隣の和室から顔を覗かせて、もう一度「いい?!」と聞く。つまりは、俺が隣の和室で、自分は奥の洋間を使いたいって事だ。ダブルベッドは、別の洋間にすでに設置されているし、俺はアツシの方を向くと「いいよ。俺は和室でいい。」と言ってやった。  部屋は三つ。和室が一部屋と洋間が二部屋。あとは12帖のリビングダイニングに4帖のキッチンとバス、トイレがこの家の間取り。 会社の上司の親が経営する賃貸マンションに、俺たち二人は今日越して来たばかり。マンションの管理人の役目も請け負うという事で、格安の賃料で住める事になり、話が決まった時、俺は本当に嬉しかった。  それまでは、俺のアパートでアツシと同棲生活を送るものと思っていたから、上司からこの話を聞いた時は一人で興奮した。  最初は躊躇していたアツシも、ダブルベッドに惹かれたのか、快く引っ越しを受け入れてくれて、俺が上司に二人の関係も報告済だと言うと、複雑な顔はしたが喜んでいるようだった。  「なあ、笑っちゃうぐらいオレの荷物少ないんだけど.....。実家から運んだのってパソコンとかCDだけだもんな。」  アツシは俺の横に来ると、ガムテープを剥すのを手伝いながら言う。既に自分の荷物は荷解きが終わってしまったらしい。
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