好きだから言えないこと

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「告白もハグも出来れば一生忘れられない思い出になるだろうなって……バカみたい、私。そうすれば、ヒカルを触りたい欲求から解放されると思ったのに。だけど、こんなに胸の痛みが増すなんて思わなかった。二人のやり取りを見て、こんなに辛くなるとは思わなかった。一度触った今、もっと触りたくて仕方がないの」  アカリの告白を聞いて、僕はようやく合点がいった。  リスクの話。あれはアカリにとってのヒカルのことだったんだ。  万が一にも胸の内の想いを吐露すれば、二度と親友には戻れない。だから、アカリは想いを隠すことを選択した。ヒカルのために。  そして、ヒカルと会った時の胸の高鳴り。あれは僕だけではなくアカリの分もあったんだ。毎日あんな状態になりながらも、想いを隠し続ける心中を想像すると、僕も苦しくなる。 「どうして私は女に生まれたんだろうと思わない日は無かったわ。例え世間の偏見が無くなったって、私が女である以上、異性愛者のヒカルと私が結ばれることは無いの。せめて男であったなら、私はきっと諦められたはずなのに。どうして――」  アカリの目から涙が零れる。強いはずのアカリが泣いている。  どうすればいい。僕は一瞬躊躇して、すぐに心を決めた。 「アカリさんは強いよ」  僕にできることは思ったことを正直に伝えることだけだ。 「短い時間だったけれど、僕はアカリさんに出会えてよかった。その強さがあったから僕はヒカルさんに告白できた。本当に感謝してる」 「……私は強くなんか、ない」 「強いよ。僕よりもずっと。だから、きっとこれからの日々も、中段蹴りで吹き飛ばせるはずだよ」  僕には無い未来を、アカリはヒカルとともに生きていかなければならない。それはきっととても苦しい。でも、アカリはそれを選択した。僕には選べなかった選択肢を選んだアカリの強さを後押しできればそれでいい。後はアカリが何とかできる。アカリは強いのだから。 「アカリさんならやれる。僕はそれを知っているから。だから、頑張って」 「……」  泣いているアカリを抱きしめて、僕は消えることにした。 「さよなら」  願わくば、僕の残滓が二人を支えられますように。  後のことは知らないけれど、二人はきっとうまくいくと信じて。  僕はこの世界から退場するのだった。
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