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私の問いに苦悩してから、それでもホタルは顔を上げて私に言った。
「それでも僕は、ヒカルさんに告白をしたいです」
「……どうして? どうせ自分が消えてしまうから? 残されたヒカルのことはどうでもいいの?」
「違います。好きな人が悲しむことはしたくありません」
「じゃあ、どうして!」
「――それでも、伝えたい思いがあるからです。ヒカルさんが居たから、僕は苦しい入院生活を笑顔で終えることができた。ヒカルさんの笑顔にはその力があると教えたいんです。きっと、ヒカルさんにとってもその思いは大切なものになると思います。それが、この世界で僕が唯一やり残したことですから」
ホタルの泣きそうな笑顔が眩しくて、私は瞳が潤んでしまった。
……何をむきになっているんだ私は。少なくてもホタルは私よりも、余程強い覚悟を持っている。
「……強いのね、ホタル君」
「そんなことないですよ。アカリさんの方がよほど強いです。さっきの中段蹴り、すごかったです」
そんなことない。私は弱い。だから私は何も――。
私は少し考えてから、口を開いた。
「……いいわ。協力してあげる。ホタル君、私の後ろに立って」
「え?」
「いいから」
ホタル君に背を向ける私。その後ろにホタル君が緊張した面持ちで近づいてくるのが分かった。
心配しなくても回し蹴りを喰らわしたりしないのに。
「来たわね。そしたら右手を私の右手に重ねなさい。身体はくっつけていいわよ。そうしないと重ねられないから」
「え? え?」
戸惑うホタル君の右手をぐいと引っ張って無理やり私の右腕に重ねる。私は右腕から自分の意識を切り離した。すると、さっきまで重なっていたホタル君の右腕が、私の右腕に入りこみ、ホタル君が息を飲んだのが分かった。
「動かしてみて」
「……動く。イメージよりも細くて小さい……」
「言っとくけど、その右手で私の胸を揉んだりしたら蹴り倒すわよホタル君」
「しませんよ!」
馬鹿なやり取りをしながら、感覚を掴んだホタル君に私は言った。
「良い感じね。これなら全身を貸せるわ」
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