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「……朝だ」
(違うわホタル君。朝ね、が私の言葉遣いよ)
僕は陽光に目を細めながら頷いた。
昨日はあの後、アカリに従いながらアカリになりすまし、家族の団らんを乗り切った。絶対ばれると思っていたが、案外誰にも気づかれなかった。何はともあれ、アカリの身体を借りてからすでに半日が経過している。身体の細さはともかく、所作については少し慣れてきた。
それにしても、身体を借りる前から思っていたが、アカリは美人だ。ヒカルはかわいいという言葉が似あうが、アカリは綺麗という言葉が似あう。艶のある腰丈までの黒髪と桃色の唇、切れ長の眉、すっとした鼻、今まで見た女子の中でもかなりレベルが高い。
(……鏡の前で何を考えてるのよ)
「あ、すみません」
(身体に入っているうちは感情が共有されるのだから、気をつけなさい。まあ、ポジティブに受け取っておくわ。とりあえず、身支度を済ませるから一度出て)
「了解」
アカリの身体から離れる僕、その僕を見ながらアカリが尋ねてきた。
「……まさかとは思うけれど、私の家に来る前にヒカルの裸とか見てないでしょうね」
「見てないです! 神に誓って!」
「よかった。もし見ていたら許せないところだったわ」
そう言って部屋から出ていくアカリを僕は見送った。
昨夜、アカリに僕は現状を伝えた。
自分がこの世界に居られるのは、死後1週間まで。アカリと出会ったのが5日目のことだったので、明日にはタイムリミットになること。最初の3日間は自分の葬儀に参加し、4日目はヒカルの家に行ったこと。しかし、ヒカルは僕の姿が見えず、なぜか徹夜で鳥の編みぐるみを作成していたため、夢枕に立つこともできなかったこと。
以上を話したところ、アカリからは蔑みの目で見られた。曰く「幽霊ってそんなこともできるのね。知りたくなかったわ」とのことだ。まあ、確かに幽霊を見れない人が幽霊に見られ放題だなんて事実は知りたくないだろう。
告白のタイミングは明日のタイムリミット手前で一致した。手段は真っ向勝負。アカリはヒカルに能力をばらし、僕が告白する手はずとなった。
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