好きだから言えないこと

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 何はともあれ、今日は慣らし運転だ。 「まさかとは思うけれど、ホタル君。何の準備も無しに告白できるなんて思ってないでしょうね。好きな人の傍に居るのは思っている以上に緊張するものよ。一瞬で頭が真っ白になるから、一度くらいは傍に居ることを経験しておきなさい」  昨日アカリから言われたことを反芻する。なるほどと思った。そうでなくても僕は心臓の病であったことから緊張から離れて生活していたから、慣らしは必要だと思った。  思ったのだが――。 (……これは流石に予想外よ) 「ごめんなさい」  通学路のバス停で、僕とアカリはヒカルから数メートル離れて会話をする羽目になった。  緊張とは言っても、会話が閊えるくらいだろうと思っていたのが運の尽き。「おはよー」と近寄るヒカルを見て僕は言葉すら出ない自分に愕然とした。  なんだこれ! 近くで見るとさらに可愛すぎる! なんかいい匂いするし! 今なんて言われたっけ! 声可愛すぎて分からなかった!  感情が爆発し、心臓が爆音を奏でているのを見かねてアカリが言った。 「ヒカル、半径2メートル以内に近寄らないで」  酷いと思ったが、ナイスとも思った。そんなことを言って大丈夫か尋ねてみると普段からこんなやり取りをしているらしい。確かにヒカルもしょんぼりしつつも手慣れた調子で離れていく。僕の考える友人像とは違うが、これはこれで仲の良さがなせる関係なのだろう。  それにしても予想外だ。離れた今でも風に乗ってくるヒカルの匂いで胸がいちいち高鳴る。トレードマークのマフラーを見たくて目を向けると、ニコっと無邪気な笑みを浮かべるところも反則だ。 (やる気あるの?) 「もちろんです。放課後は任せてください」 (……もう通学は諦めるのね) 「朝はもう無理です。心臓が持ちません」 (まあ、確かにこの早鐘は仕方ないわね。期待しないで待っているわ) 「その期待を裏切らないようにします」 (……お願いだから裏切って頂戴)  アカリの想いむなしく、僕は放課後も無念な結果に終わることとなった。  勝負は明日。  アカリが不甲斐ない僕のためにすべてセッティングすることとなった。
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