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(準備はいい?)
「うん」
(――胸を張りなさい。こんな機会、二度とないでしょう。後悔はしないようにしなさい)
「分かってる。ありがとう」
最後の日、中学校近くのファミレスで僕とアカリは会話をしていた。もう少ししたらヒカルが入ってくる予定だ。
結局今朝もヒカルとはまともに話せなかった。自分でも引くほど緊張して駄目だった。まったくもって不甲斐ない。
(……私、ホタル君には感謝しているのよ)
「感謝?」
唐突に心当たりのないことを言われて僕は聞き返した。僕がアカリに感謝することはあっても、アカリは僕に感謝することなんて無いんじゃないだろうか。
(そう、感謝。ホタル君にとっては分からないかもしれないけれど、私は大きなきっかけをホタル君からもらったの。だから――)
アカリは少しだけ言葉に詰まってから、静かにこう言った。
(お願いだから、何かに気づいても気づかないふりをして、私の前から消えると約束して頂戴)
「なぜ?」
(お願い)
「分かった」
玄関の鈴が鳴り、ヒカルがファミレスの中に入ってきた。
僕の言葉に満足したアカリが、体の中に戻ってくる。
まずはアカリが力の説明をする。ヒカルは興味深そうにその話を受け止めた。普通は信じないだろう話を当然のように受け止める様子から、アカリへの信頼が感じられた。
「――というわけで、ここにホタル君が居るの。それで、ヒカルに向けて大切な話があるというわけなんだけれど、……ヒカル?」
僕の名前が出た瞬間にヒカルの様子が変わった。みるみるうちに両目に涙がたまるのが分かる。震える手を口元に当て、今にも嗚咽しそうな気配で「本当に?」と尋ねた。
その変わりように僕とアカリは驚きながらも、頷いた。アカリに促され、僕はアカリの中に入って言った。
「――初めましてヒカルさん、僕がホタルです」
ヒカルは外した緑色のマフラーに顔を埋めて、本物だ、と小さく呟いてから言った。
「……会いたかった」
その瞬間、胸に電流が走るのが分かった。
なんだこれ、胸が苦しい。これは、悲しみ?
「……僕も会いたかった。会えて嬉しいです。本当に」
胸の痛みは止むことを知らず、それどころか強くなる一方だった。
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