きのこ雲

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 花見。    会社の近くの公園は、このあたりではちょっとした桜の名所である。  桜の花が満開に近づくと、このへんの会社の人々はみんなブルーシートで場所を取って、花見を行う。  その時期になるとライトアップされて、祭らしく提灯も下げられる。夜になると、どんちゃんどんちゃん騒がしくなる。  公園のフェンスの中は、所狭しとブルーシートが敷かれていて、いろんな会社さんの団体が飲めや歌えやの馬鹿騒ぎに興じていた。いつも相当な無礼講があちこちで行われるのだが、今年の乱れ方は凄い。どんどんエスカレートしていって、留まるところを知らない。  (毎年、零時前には少しずつ静かになって、みんな明日のために帰ってゆくんだけど)  今年に限っては、大盛り上がりに盛り上がりつつも、まだ盛り上がりのピークに達していないように、もっともっと盛り上がってゆく。    ブルーシートの隅っこ、ほとんどお尻が土に上に出そうなところで正座して、わたしは俯いている。  膝の上に、両手で支え盛った紙コップがある。提灯の光が映り込んで水面がゆらゆら輝いている。  スポーツドリンクを、ちびちびと飲んで、一応なにか飲んでる体裁を保っているのだが、そろそろ限界だ。  「この世が終わっても満足」  と、調子はずれに叫びながら、どこかの会社のおっさんが公園中を走り回っている。おっさん、ブルーシートだろうが土の上だろうがお構いなしだ。  さっきチラ見した時は、走り回りながら背広を脱いでいた。  今見たら、ネクタイがなくなってベルトが外れ、前がはだけていた。  多分、もう一周するあたりで、アンダーシャツとブリーフ姿になっているんじゃないか。
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