懐古

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 私は銀色のリボンをほどき、包装紙のセロファンを丁寧にはがしました。中から出てきたのは、青い、木製の箱でした。蓋の留め具に私のイニシャルの〝F〟の文字があしらわれています。  「ちょっと待って。」  私が箱を開けようとして、留め具に手をかけたとき、彼は私の手を掴みました。  「まだ開けないでほしい。」  「え?」  「まだ開けないで欲しいんだ。僕が開けて良いと言うまで、待ってくれないか。」   私は手を捕まれたまま、青い箱を手の中で転がしました。中には確かに何かが入っているようで、箱の向きを変えるたびに中で何か動く気配がしました。  「何が入っているんだい?」  「内緒だよ。言ってしまったら面白くないだろう。」  「いつ良いと言ってくれる?」  「それはまだ決めてないけど。でも、そんなに先にはならないと思う。」  「わかったよ。」  「じゃあ、約束だ。」  確かめるようにそう言って彼はやっと私の手を離しました。  私は釈然としないまま、その箱を家へ持って帰りました。そして、いつ彼の許可が出ても良いように、箱を机の上に置いておきました。その日から私は毎日彼に箱のことを尋ねました。今日は開けてもいいかい。今日なら開けてもいいかい。しかし、一週間たち、一ヶ月たち、一年がたっても、彼が「いいよ」ということはありませんでした。     
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