懐古

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ですが、私はその箱を手に取って眺めるたび、それ自体を“思い出”と軽く表現をするのがためらわれるような、不思議な心境に陥れられるのです。そしてその後に、私は決まって小さく微笑みました。私にこの箱をあたえた張本人であり、私が知る限り、一番の策士である友人。ジャック・シュトライザーを称えるために。  時が重なって記憶となるのか、記憶が重なったものを時と呼ぶのか。私は彼について語るときだけ、それは間違いなく後者であると断言できます。  ジャック・シュトライザーは、私が小学生だった頃の親友でした。  今振り返ってみると、当時の私はかなり活発な部類の子供だったと思います。友人達とサッカーをすれば、勢い余って付近にあった家のガラスを割り、かけっこをしては、転んで白いTシャツを土でどろどろに汚していました。友人と自転車に乗って丘の向こうの公園に行こうとした折りに、〝ロデオごっこ〟と称して、そこそこの勾配がついていた丘から、自転車の後部車輪をめちゃくちゃに跳ね上げながら下り降りて自転車を大破させてしまったことなどは、子供時代で一二を争う勇猛な偉勲だったと今でもはっきりと覚えています。  それに比べ、ジャックは私とは正反対の性質の、極めておとなしい子供でした。彼は読書が好きで、学校の休み時間などはいつも自分の席で本を読んでいました。小学校で過ごした六年間のうち、彼が走ったりしたところを見たのは、体育の授業時を除いて無かったように思います。     
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