懐古

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 彼の部屋にはいつも通り、何かのクラシック・ミュージックがかかっていました。私は一時間ほどとりとめの無い話をした後、彼に今日はもう帰る旨を伝えました。理科室の机に油性ペンで落書きをしたことが教師に知れて、特別な宿題を出されていたのです。彼は笑って、少し待つように言いました。  「明日父さんと隣町まで出かけるんだけど、何か欲しいものは無いかい?」  唐突な質問に、私は少々驚きました。  「どうして?」  「どうしてって。もうすぐ君の誕生日じゃないか。」  言われて初めて気がつきました。確かに、もう一週間ほどで私の誕生日です。私は少し考えました。去年の誕生日、私は彼に何をあげただろうか。赤いマフラーだったような気もすれば、茶色いブックカバーだったような気もしました。  私はわんぱく坊主だった割りに、こういう場合の礼儀はきちんと心得ていました。  流行のロボットはどうだろう。いや、彼はきっと自分のお小遣いで買ってくれるに違いないから、あまり高いものはだめだ。では、新しいトランプは…。  様々なおもちゃが私の頭に現れては消えていきました。私が黙って考え込む様子がおかしかったらしく、彼はくすくすと笑いました。  「思いつかないようなら、僕が勝手に買ってきても良いかな。なに、変なものは買わないよ。いろいろなお店を見て、君のプレゼントにふさわしいものを見つけてくる。」     
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