懐古

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 箱はずっと私の机に置かれたままでしたが、しかし、ほこりをかぶってはいませんでした。私が毎日手に取り、その中身を考えていたからです。彼の許可をまたずに開けてやろうかと思ったことは、何度もありました。しかし、そのたびに彼との約束なのだからと思い直しました。  そうして悶々とした日々を過ごすうち、小学校を卒業する年がやってきました。私たちの学校の生徒の大半は、同じ学区内にある中学校に進学することになっていました。なので、中学に上がっても、小学校と顔ぶれは変わりません。そういうわけなので、私は進学に何の不安も抱いていませんでした。  春休みがはじまってすぐ、私は彼の家へ出かけました。手には私の母がおやつにと焼いてくれたクッキーを持っていました。  彼の家のチャイムを押してドアを開けると、その日はなぜかいつもの音楽が聞こえませんでした。階段の上から手招いてくれた彼を追うようにして部屋に入ると、彼の部屋の半分がは大小様々な大きさの段ボールで埋められていました。  「何かあったのかい?」  私は驚いて訊ねました。  「いや、何も無いよ。ただの引っ越しの準備さ。」  「引っ越しって。誰の。」  「僕のだよ。君には内緒にしてたんだけど、僕は中学受験をして、合格したんだ。四月からはそこの中学校へ行くんだ。」  淡々と答える彼に、私は柔らかい綿で顔を覆われたような息苦しさを感じました。  「どこの中学に?」     
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