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唇が離れてから、ゆっくりと目を開けると、先輩は気恥ずかしそうにしながらも、いつもと同じ優しい笑顔を向けてくれた。
「せんぱい…いまの、」
「僕も好きだよ、百合岡」
また、きゅうっと胸が締め付けられる。
先輩が?私のことを好き?
…考えてもみなかった。
約束を覚えてくれていただけでも嬉しいのに。
1年越しに再会した先輩から、こんなご褒美をもらえるなんて。
『もし城ヶ崎高校に合格出来たら、僕が頭ポンポンしてあげるよ』
当時女子の間で流行ってた頭ポンポン。
壁ドンとか、顎クイとか、そんな女子がきゅんとする行動が話のタネだった。
とある日の生徒会室でもそんな話題になり、何してもらえたら一番嬉しいかって1人1つずつ言っていって。
私の番が回ってきて咄嗟に出たのが頭ポンポンだった。
たったそれだけの話。
ちょうどそこに先輩が居合わせて、話の流れから志望校に合格したら先輩が頭ポンポンしてくれるという、そんな提案をしてくれた。
その時は私も、そこまで本気にした訳じゃなかった。しかし先輩の卒業式の日、先輩は改めて私にこう言ってくれた。
『あれ、嘘じゃないからね。合格したら教えて。約束はちゃんと守るから』
これが、私と先輩が交わした『約束』
なのに先輩は、約束以上のご褒美を私にくれた。
初めてのキス。
初めてのカレ。
小さな約束が、大きな幸せを運んできてくれた。
こんな約束なら、いくらでもしたい。
でも1年は長すぎるから、今度はもう少し短い期間がいいな。
「…先輩、次はこんな約束をしませんか?」
「ん?」
片手を添えて、先輩にこそっと耳打ちする。
『今度の土曜日、私とデートして下さい』
完
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