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覚えていますか?
私に言ってくれた一言を。
「字、綺麗だね」
そんな一言。
生徒会長として、書記の板書を褒めただけ。
でも私には、素敵な一言だったんです。
生徒会だって、先生からお願いされて仕方なく入っただけで、選挙で選ばれたとかそんな人気者な訳じゃなくて。むしろ、友達と呼べる人も数えるほどしかいなくて。
誰からも気に留めてもらえなかった私を初めて、先輩が見つけてくれたような気がしたんです。
一瞬にして、自分の書いた文字が、キラキラして見えました。
そこでにっこりと微笑む先輩も同じように、ううん、それ以上にキラキラして見えたんです。
平凡で地味な毎日が、その一言で変わったんです。
その時はまだ自覚できてなかったけれど、後で気づきました。
あの日、私は先輩に、恋をしたんです。
「百合岡さ、すごく猪突猛進タイプだよね。いきなり訪ねてきたと思ったら、走り去って。捕まえたと思ったら、今度は告白された」
冷静に並べられると、自分の行動はあまりにもひどい。思わず目を覆う。
「でも、可愛い」
(え…?)
心がきゅうっと締め付けられる。
夢を見ているのだろうか。
目の前に憧れの先輩がいて。
よもや私を可愛いだなんて。
ゆっくりと顔を上げ、先輩と目を合わせると、バチッと火花が散り、お互いに目を逸らせなくなった。
目を逸らせないまま、刻々と時が過ぎた。
そして、ゆっくりと先輩の顔が近づいてきた。
私は場に身を任せて、ゆっくりと目を瞑る。
次の瞬間、唇がふれた。
初めて先輩と、キスをした。
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