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そして、受験に失敗した場合はというと……僕は毒舌を吐くことが生涯できなくなる【毒舌禁止】の呪法を、姫様は反対に【毒舌聴取禁止】の呪法をかけられて、聴覚から毒舌をシャットアウトされるらしい。S気質とM気質の者にとっては、ある意味死よりも恐ろしい刑と罰が待っているのだ。
つまり、姫様と僕の双方にとって次回の入試は【絶対に負けられない戦い】だということを意味していた。
***
「それでは、くれぐれも姫様をよろしくお願いしますぞ、講師殿。何せ、あなたの【舌の自由】も懸かっております故な……」
先程、姫様直属の執事と名乗った高齢の男性天使が僕に話しかけてくる。背中から羽こそ生えているものの、タキシードに身を包んでおり、絵に描いたような西洋貴族に仕える【爺や】といった感じだ。
「はっ! 心得ております。私に全てお任せください。必ずや、姫様を合格に導いてご覧に入れます。姫様も、どうぞ大船に乗ったつもりで私を信頼していただけますと、幸いでございます」
「……それは、あなた次第です。大言壮語な人物でないことを心より期待しておりますわ」
「これは、傲慢な物言い失礼いたしました。ですが、合格の成果を出すことだけは、ここにお約束致しますので、どうかご容赦を……」
「講師殿、その言葉……お忘れなきように。……では姫様、私はこれにて失礼いたします。お勉強が捗るよう、この爺もお祈りしております」
「爺や、皆まで言わずとも分かっていますから、もうお下がりなさいな」
「ほっほっほっ。これは失礼を。老いぼれ故、つい老婆心が疼きましてな。お許しくだされ……では、これにて」
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